24年前の夏。
僕のツィンバロンが完成しました。
この楽器は、恩師ヘレンチャール・ヴィクトリア先生が使っているツィンバロンをもとに、改良を重ねて作られたプロトタイプです。
当時のブダペストでは、おそらく先生と僕だけがこのモデルを使っていました。 伝統的なツィンバロンより約30kg軽く、装飾も一切ありません。 見た目はとてもシンプルですが、その分、音には本当に惚れ込んでいます。今でも「この楽器に出会えてよかった」と思える、大切な存在です。
完成して間もない頃、このツィンバロンと一緒に、ブダの丘にあるマーチャーシュ教会で演奏させていただく機会がありました。 真
夏の暑い日だったことを、今でもよく覚えています。
教会の中へ入ると、美しいステンドグラスから差し込む光が床や壁をやさしく彩り、高い天井には豊かな残響が広がっていました。 まるで建物全体が楽器になったような空間。
その景色は24年経った今でも、心の中に鮮やかに残っています。
その時に演奏したのは、バッハの《シャコンヌ》。
今思えば、あの教会は残響が本当に豊かで、一生懸命(?)弾いていた細かな音も、全部きれいな和音になって響いていたかもしれません(笑)。
あれから24年。 このツィンバロンとともに、ハンガリーだけでなく、ドイツ、スイス、チェコ、スロバキア、そして日本各地へ、一緒に旅をしてきました。
大学での講義も、コンサートも、東日本大震災の被災地で仮設住宅を訪ねた日々も、たくさんのオーケストラとの共演も、すべてこの楽器と一緒です。 NHK交響楽団の公演も、大河ドラマ『べらぼう』のオープニングテーマの収録も、このツィンバロンが隣にいてくれました。
思い返してみると、僕の音楽人生の大切な時間には、いつもこの楽器があります。
楽器は言葉を話しません。
それでも、嬉しかった日も、悔しかった日も、何も言わずに僕のそばにいて、一緒に音を重ね続けてくれました。
24年間、本当にありがとう。
これからも、この大好きなツィンバロンと一緒に、誰かの心にそっと寄り添える音楽を届けていけたらと思っています。

