満月を見ていると、音が聞こえてくる

8年前に描いた、小さな水彩画があります。
その絵をポストカードにプリントしてみました。
描いたのは、僕が両眼の手術をした後のことです。
当時は、とにかく光が眩しくて仕方がありませんでした。
外の光はもちろん、部屋の中の明るささえ辛く感じることがあって、一日中カーテンを閉め切った薄暗い部屋で過ごしていました。
当然、ツィンバロンの練習どころではありません。
まずは「光に慣れる」というところからのスタートでした。
でも、何もしないまま一日が終わると、今度は「今日も何もできなかった」という罪悪感だけが残ってしまう。
そこで、ふと思いついたんです。
「そうだ、絵を描いてみよう」
透明水彩は、子どもの頃から好きでした。
大きな絵を描くほどの元気はなかったので、ハガキくらいの小さな紙に、少しずつ色を重ねていきました。
僕の家から見えるのは、宍道湖。
だから、その頃描いていたのは、ほとんどが宍道湖の風景です。
急ぐ必要もありません。
体調のいい時に少し描いて、疲れたらやめる。
だいたい3日に1枚くらい。
そんなペースで、のんびり描いていました。
この絵を描いたのは、ちょうど十五夜の頃でした。
大きな月が宍道湖の上に浮かんでいて、水面にも淡い光が広がっている。
その記憶を、小さな紙の中に閉じ込めるように描いた一枚です。
そして今年も、あと2週間ほどで十五夜です。
2026年の十五夜 ―「中秋の名月」は、9月25日(金)。
中秋の名月とは、太陰太陽暦(旧暦)の8月15日の夜に見える月のことです。
ちなみに今年は、十五夜と満月が同じ日ではありません。
中秋の名月は9月25日。
満月になるのは9月27日。
国立天文台によると、中秋の名月と満月が2日ずれるのは少し珍しいそうです。
満月って、不思議ですよね。
じっと見ていると、
音が聞こえてくるような気がしませんか?
僕には、月の光そのものが、静かな音になって降りてくるように感じることがあります。
昔の人は、月のことを親しみを込めて「ののさま」と呼ぶことがあったそうです。
僕はこの絵を描いたあと、その言葉をタイトルにして、
「ののさま ~ツィンバロンソロのために~」
という曲を書きました。
自分で考えてみると、あの曲のイメージは、どこかドビュッシーの《月の光》に似ている気がします。
もちろん音楽そのものが似ているという意味ではなくて、
月を見ていると、そこには何も鳴っていないはずなのに、なぜか音楽が聞こえてくる。
そんな感覚です。
8年前。
両眼の手術をして、眩しい光を避けながら、薄暗い部屋の中で描いた小さな水彩画。
あの頃は、まさかこの絵から曲が生まれるとは思っていませんでした。
そして8年後。
こうしてポストカードになった自分の絵を眺めていると、絵を描いていた頃の静かな時間まで戻ってくるような気がします。
今年の十五夜。
晴れたら、久しぶりにゆっくり宍道湖の月を眺めてみよう…。
そして耳を澄ませてみようと思います。
今年の月は、どんな音がするんでしょうね。